自己自身として生きるために/人間学的断想・8
引き受けるべき苦悩と不安
谷口 隆之助
1
1元:八代学院大学
pp.127-131
発行日 1977年2月25日
Published Date 1977/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663907070
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人間における苦悩と不安
生きているかぎりひとはみなさまざまの苦悩を背負い,不安を経験する,と言ってよい.その程度の差はともかく,ものごころがついてからこのかた,1度も苦しみや悩みを経験したことがないというひとはおそらくひとりもいないであろう.またいままで1度も不安を感じたことがない,といらひともおそらくいないであろう.それは,苦悩も不安も,本来わたしたちがまさに‘人間’であるということから一様に生じてくる事態であって,それらは決して個性や環境の相違によって生じたり生じなかったりする事態ではないからである.言いかえれば,苦悩も不安も,それらは‘人間’という存在のしかたそのものをあらわにする,しかもきわめて実存的な事態なのである.むしろ,わたしたちが生きているかぎり苦しみ悩み,また不安を抱くということ自体が,個々の実存としてのわたしたちの本来の実存のしかたなのだ,と言ってよい.まさに,苦悩と不安とは,わたしたちがいまここに実存し,生きている,ということのあかににほかならないのである.
しかしわたしたちは,一般に苦しみや悩みがなにひとつなく,不安をまったくない状態が幸福な人生なのだ,と考えがちである.それゆえに,苦悩や不安はできるだけ経験しないですませたいと願うのであり,たとえば自分の子どもなどにも苦悩や不安はできるだけ経験させたくないと念じているのである.
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