本との対話
—石牟礼道子 著—苦海浄土—わが水俣病
菅 龍一
pp.23-26
発行日 1971年6月25日
Published Date 1971/6/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906473
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椿の海
“ここらあたりは,海の底にも,泉が湧くのである。
今は使わない水の底に,井戸のゴリが,椿の花や,舟釘の形をして累々と沈んでいた。井戸の上の崖から,樹齢も定かならぬ椿の古樹が,うち重なりながら,洗場や,その前の広場をおおっていた。黒々とした葉や,まがりくねってのびている枝は,その根に割れた岩を抱き,年老いた精をはなっていて,その下蔭はいつも涼しく,ひっそりとしていた。井戸も椿も,おのれの歳月のみならず,この村のよわいを語っていた。”
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