教育のひろば
教育と底流
山本 恒夫
1
1東京成徳短期大学
pp.9
発行日 1969年3月1日
Published Date 1969/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906134
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私は今,わけあって明治末から大正頃の社会教育のことを調べている。するとこれまであまり知られていない,すぐれた教育者に出会うことがある。そのような人たちは,何も社会的に名をあげようとか,後世に名を残そうなどと思って教育の世界に入ったわけではないから,これといったまとまりのある記録を残しているわけではない。しかし,私は,筆が立ち,弁舌もさわやかであったであろうオピニオン・リーダーよりも,教育の底辺にあって教育を支えてきたこのような人たちの活動をこそ,掘りおこし教育を考える際の手がかりにしなければならないと思っている。
そのような教育者の群像の中でも,私の興味をひくのは,ある1つの信念に生涯をかけ,それを行動の基準としてさまざまな困難を克服してきたタイプの人である。たとえば,みずから貧困の中より身をおこし,教育の重要性を身にしみて感じた青年が教育の世界に入り,“みずから学ぶ姿を示すことこそ教育なのだ”と考えつつ,その生涯を教育に捧げた例もある。それは,明治の向学心に燃えた青年のなごりであり,当時はよくみかけた姿かも知れない。教育史上に特筆されることをしたわけでもなく,ごく平凡な教育者であった。
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