特集 寮制の現状と問題点
論稿 寮制度における教育的意義
鈴木 博雄
1
1東京教育大学教育学
pp.6-11
発行日 1968年5月1日
Published Date 1968/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663906011
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はじめに
今日の大学は,どの大学でもつぎの二つの重要な問題に直面して苦慮している。すなわち,一つは大学の膨張化に伴って増加して来た,学生の宿所をなんとか確保してやるという問題であり,他の一つはマンモス化して来た大学のなかで,学生が大学生活に適応して行くのを援助するという問題である。そして,どの大学でも,この二つの問題を学寮の拡張と内容の充実とによって一挙に解決しようと考えている。このように,学寮の存在意義は学生に宿所を提供するということにあるとともに,学生の教育と生活指導という教育的役割をも持っているといえるのである。
周知のように,学寮は,その創設された昔から学校の重要な教育施設と考えられていた。たとえば,ヨーロッパでは,近代的大学の原型といわれるボローニア大学やパリ大学などでは,各地から集って来た学生の生活上の必要から,まず学寮(コレージュ)がつくられた。この学寮は,やがて,単なる宿所というだけではなく,これに教育的役割を附与しようとする傾向が生れて来た。パリ大学では,コレージュで寮生に講義がなされるようになり,やがて,それがソルボンヌ大学にまで発展するようになる。日本でも,古代の大学寮や国学,私学にはそれぞれ教育機関としての学寮を具備している。また,古代,中世を通じて有力な教育機関であった寺院においても,学寮教育は重視されていた。
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