教育のひろば
進歩についていけない教育
古谷 綱武
pp.1
発行日 1964年5月1日
Published Date 1964/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663905282
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ぼくたち古い世代の日本人がベニヤ板という名前で知っていた合板は,今では合板という名前でよばれることのほうが一般的になった。その品質が,もはやむかしのベニヤ板とはまったく別なものにまで進歩したからなのである。ぼくは最近その工場を見学しておどろいたのである。自然材はもはやあらゆる意味で,現代の合板にはかなわない。今後の量産木材製品はすべて,合板が使われるようになっていこう。
ぼくはその工場でこの木材革命を見たとき,教育は,この現代の木材についての知識を,教えているのかどうかということが,すぐに心にきた。その後しらべてもらったところによると,工業高校においてさえ,合板についての教材はまったくなかったことを知ったのである。時代の進歩に応じていかなければならない日本の知識教育は,じっさいおくれている。またおくれたままで平気でいる。しかしまたその後に知ったところによると,日本合板工業組合で,高校生用のテキストとして「合板」を作製して,副本として全国工業高校に配布したという。ぼくはまことに適切な配慮だと思ったが,しかしことによると,業界ではもはや,教育のおくれが見ていられないところまできていたための緊急対策だったのかもしれない。教育界がこういう配慮を受けなければならなかったことは,その時代の社会に有用に生きていく人間こそを,社会におくりこんでいかなければならない教育界の恥であろう。
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