教材
日本近代女性史—第5回 資本主義の発達と女性
福地 重孝
1
1和洋女子大
pp.565-568
発行日 1961年11月1日
Published Date 1961/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663904101
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働く婦人
農村の女性が,農業生産にはげみ更に,生活資料のうち,衣服,食物をととのえるのがつとめとされていたことは先にも一度のべた。衣服をととのえるといっても,それは布地を裁ち縫い,補習整理の作業だけでなく,糸を紡ぎ,手機を織り,それを裁縫するまでを担当した。ところで近代にはいり,自給自足していた綿作は,原綿の輸入に圧倒され,やすい製品が商品として農村にはいり,その生地を購入するようになったから,女子の家内手工業であった手織は行なわれなくなった。それだけ女子の労力は軽くなったが,洗濯,炊事のことから,味噌や漬物,粉挽などの食品加工の仕事,菜園畠の経営は婦人の裁量による家事の一部であり,食糧の管理など家事労働はやはり主婦が責任を持たねばならなかった。爼(まないた),裁板(たちいた),洗濯板(せんたくいた)の三板(さんばん)は,働く女性のシンボルとされた。ちょうど主婦権の象徴が,食生活の杓子(しゃくし)に表現されていたように。自給自足経済がやぶれ,商品経済にまきこまれた農村では,現金支出が多くなった。購入の慾求を満すためには,女性もいくばくかの現金を持つことが必要であったが,正式に財産を持つことは認められず,せいぜい消費生活をひそかに切りつめていた「へそくり貯蓄」や,手内職などの特別な勤労によって得た「ホマチ」銭を,小遣銭にあてるよりみちはなかった。
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