教育の基礎
教育心理—学習をどう指導するか
阪本 一郎
1
1東京学芸大学
pp.16-19
発行日 1961年1月1日
Published Date 1961/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663903969
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
〈新しい学習指導とは〉
ここで学習というのは,ごく広い意味においてである。普通には文字を覚えるとか,計算の仕方を覚えるとかいうように,知識を吸収することを意味している場合が多いが,心理学では,幼児が歩行できるようになるのも,少年が野球をするようになるのも,少女がセンチメンタルな小説が好きになるのも,みんな学習ということばに含めている。つまり個人に新しい魅力や態度が可能になることはみな学習とよぶのである。
むかしの教育は,記憶本位であった。なるべく多くの知識を“詰み込み”,暗誦させ,答案用紙の上に再生させるのが仕事であった。だから成績のよい子というのは記憶力のよい子というのと同じで,その子の大脳の中にはほかの子よりもたくさんの知識が貯蔵されていたのである。だがその多量の知識が,かれの生活の全体にどれだけ役立っていたかは疑わしい。ラジオで“話の泉”という番組をやっているが,あんなふうな知識の断片をいくら頭の中に詰めこんでいても,本人の生活がよりゆたかに,より幸福に営まれるとは限らない。むかし学校時代に秀才だと言われた子どもが,世間へ出てから,かならずしも成功していないのも,そのためである。
Copyright © 1961, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.