特集 未来を見据えた看護教育を―いま,何を準備するか
女性の意識変革の先駆けに―看護とジェンダー
春日 キスヨ
1
1安田女子大学
pp.736-739
発行日 1998年10月25日
Published Date 1998/10/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663901913
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「3歳児神話」とジェンダー
今年度『厚生白書』は,女性と母性のあり方を考える上で画期的な内容を含んでいた.戦後日本社会で広く信じられてきた「3歳児神話」,すなわち「子どもは3歳までは常時家庭において母親の手で育てないと,子どもの成長に悪影響を及ぼす」という説を,「少なくとも合理的な根拠は認められない」と否定し,むしろ,「過剰な母性の強調が,母親に子育てにおける過剰な責任を負わせ」育児ストレスを生む一因にもなっていると,そのマイナスの側面にまで言及している.
近年の家族社会学や,心理学研究領域においては,「3歳児神話」が1960年代に始まった高度経済成長期の「人づくり施策」の一環として創出推進されてきた事実は明らかにされていた.1951年にJ. BowlbyはWHO(世界保健機構)の要請を受けて出した「愛着理論」でmaternalcare=(母親または母親代理者による)母性的養育の重要性という説を展開した.これが日本に輸入され,「3歳児神話」として普及していく過程で,maternalcare=「生みの母,生物学的母親による継続的ケア」という方向で改変され,専業の母親の手による育児こそ望ましい,女性は家庭的役割をこそまず果たすべきという主張が社会的に形成されていったという事実も明らかにされていた.
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