連載 ナイチンゲール―在宅医療へのまなざし・10
女性の歴史と女性性(ジェンダー)
小川 典子
1
1北里大学看護学部
pp.808-809
発行日 1999年10月10日
Published Date 1999/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686900917
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女性の体の神秘である妊娠・出産が示す女性の生み出す力と,男性の獲物を捕り,敵を撃退する体力とが,両者の性役割を決定したと言われている.男性は,狩猟や戦いを通して治療法を身につけ,女性は生殖力に関わり,子どもの成長と発達を促すための,養い,はぐくみ,ケアする責任を負った.
ところが長い中世の間,女性は歴史上最もみずからを表現する機会に恵まれなかった.中世の男性,特に聖職者にとって,女性の生み出す力はむしろけがれや忌みするものであり,経験的ケア知識を操り呪術とも結びついた女性は「魔女」ですらあった.文化人類学の領域では,人類は呪術的精神世界に生き続ける.死と再生,近親相姦,親殺し,生けにえ,魔女裁判が繰り返されるテーマである.女性の不可思議さは,タブーとして暗闇に隔離され,タブーの習俗を通して女性たちの結束は強められ,経験的にケアの知識と技術が蓄積されていった.
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