連載 病原微生物・見方をかえたら・12(最終回)
おわりに
益田 昭吾
1
1東京慈恵会医科大学
pp.239
発行日 1997年3月25日
Published Date 1997/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663901588
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古来,伝染病は多くの人を苦しめてきました.伝染病の原因となるものが微生物という肉眼では見ることができないほど小さい生物であるということが知られて以来,その対策もより的確な根拠のあるものになって来ました.しかし一方,病原体を生物としてみるよりも,人類に災害をもたらす毒物とか有害物質のようにみなすことがいわゆる科学的な考え方とされはじめました.このような考え方は,ともすれば病原体も生物であるという見方を軽視したかもしれません.
昨年来,社会的に大きな問題となったO157禍でも,根底には病原体が生物であるということを忘れていたことと関係があると思われます.たとえば手を洗うことを考えてみると,毒物でしたらよく洗うことはその毒物を取り除くことを意味します.しかし相手が生物である場合には,取り除くというだけでは十分でない場合があります.洗い流されたものが生存していて,再びどこかで増殖するかも知れません.反面,病原体と言えども生物特有のか弱さを持っていることも事実ですから,やはり生物学的原理というものを根本において対策を立てれば,毒物よりも簡単にその害作用を押さえ込むことができる可能性もあります.
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