連載 人間と教育・2
知識の二つの相対性―成功とは失敗とは
上田 薫
1
,
加藤 由美子
1前:都留文科大学
pp.84-85
発行日 1993年2月25日
Published Date 1993/2/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663900522
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成功よりはむしろ失敗にこそ価値があると私は言ったが,絶対に失敗が許されない職業もいくつかある.医療がその1つであることは疑いないし,教育もまたある意味ではまさにそれに該当するということができよう.そこでは怠慢,不注意はむろん言語道断のことであるが,緊張していれば失敗を皆無にできるとかぎらぬところが容易でない.緊張を持続させる力も重要であるが,きびしい鍛練だけでなくゆとりを生む条件整備への努力もまた不可欠なのである.しかもたとえそのようにしてすらもなお,人間である以上どうしてもミスが避けがたいとすれば,いったいどうすればよいのか.
しかし実は失敗は,人間のみに原因があるのではない.もしぶつかる問題がこれまでの科学で処理しえぬものであればどうか.失敗は当然であろう.これまで成功とされてきたものさえも,その評価が変わるのではないか.世の中は動く.新しい病気も生まれる.教えられたことをただ忠実に守っていても,かならず成功する保証はない.
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