連載 ことば・最終回
やむ,やみ,やまい(病)
都留 春夫
1
1聖路加看護大学大学院
pp.1020-1021
発行日 1992年12月25日
Published Date 1992/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663900491
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人は病いを病んで病人になる.Sacksという医者は,人間以外の動物も疾病(disease)にはかかるが,病気(sickness)におちいるのは人間だけだという.病み・病い・病むを表わす英語にはもうひとつillnessというのがある.Engelhardtによれば,苦痛に悩むのはイルネスであり,何故そうなるかの説明になるのがディジースで,シックネスは社会的な役割を表わすという.つまり,人間はディジース(疾病)に罹り,イルネス(病い)を煩い,シックネス(病気)におちいるのだということができる.日本語では普通これらの3つのことを厳密に区別する3つの異なったことばを使うことはせず,病気にかかり,病気を煩い,病気になるという.
生体は複雑にはたらく巧妙な仕掛けによってある平衡状態が保たれている.少し高熱が続いてもほっておけば平熱にもどるように,少しのバランスの外れは自ら復元するシステムができている.それが大きく外れると仕掛けが十分にはたらかなくなって生命の維持が脅かされる.それが意識されるのが病気で,生体は,それでもなお健常さを取戻そうとつとめている.このことは,身体的・生理的な場合のみでなく,精神的な面についてもいえる.このバランスの乱れの原因が究明され説明がつけば,治療のてだての工夫がしやすくなる.
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