連載 新しい「医療者像」を探る・4
感情労働者としての医療者―医療者は感情的になってはいけないのか?
鷹田 佳典
1
1日本赤十字看護大学さいたま看護学部医療社会学
pp.460-469
発行日 2024年8月25日
Published Date 2024/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663202284
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
先日、新聞を読んでいたところ、あるコラム記事(2024年5月18日朝日新聞朝刊「急増する『適応障害』 職場で泣いたらダメですか?」)に目が留まりました。この記事を書いた朝日新聞編集員の岡崎明子氏は、最近、日本で適応障害と診断される人が急増していることに触れ、その要因として、職場の業務や人間関係を挙げる人が多いというデータを紹介しています。実際、岡崎氏自身も、職場で「さまざまな感情を押し殺さなければならないことが一番のストレスとなっている」ということで、例えば、理不尽なことを言われて悔しい思いをしても、泣かないように「耐えろ」と自分に言い聞かせているといいます。このように涙をこらえなければならないのは、「『職場で泣いたらダメ』という暗黙のルール」があるからです。
私がこの記事を読んで思い返したのが、10年あまり続けている医療者を対象とした聞き取り調査の中で、ある看護師さん(Dさん)から伺ったエピソードです。小児科に勤務していたDさんは、新人の頃に初めて受け持ち患児の死を経験するのですが、そのことにとても深い「ショック」を受け、病棟内で行われたお焼香の場で泣いてしまったといいます。しかし、そこで「大丈夫?」と声をかけてくれたのは、同じチームの先輩だけでした。その時にDさんは、「自分の悲しいのは自分でなんとかするしかないんだ、看護師は」と思ったと語っています1)。
Copyright © 2024, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.