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はじめに
筆者は、公立小学校の教員である。教員研修の受講は、教育基本法をはじめとし、教育関連の法令で定められている。その中には年次研修や役職研修、校務分掌による研修のような勤務場所を離れて行うものと、校内研究や教育相談のような自校の課題解決のために勤務場所を離れずに行う研修がある。いずれの研修も、昨今の教育改革の中でそれまでの教授型の研修から、対話を中心とした学習者主体の研修が増えてきている。もちろん、子どもの安全や社会の動向とICT機器の活用など、教員として知識や技術の習得が必要なものもあるが、多様化する社会の中でさまざまな専門職が連携し、協働的に教育活動を推進していくために、チームとしての学校が期待されている。その中で学習者主体の研修として、ラウンドテーブルの果たす役割は大きいと考える。
三輪によると、ラウンドテーブルとは、数名の小グループの中で報告者が時間をかけて自らの実践を異業種のメンバーに物語り、他の参加者が丁寧に聴き合う学習方法であると示している1)。校種や教科の集団、学年集団などの部署を横断する形で行われるラウンドテーブルを実施することで、異なる部署同士で意見交換のできる雰囲気づくりができたり、意見が通りやすくなったりすると、その有効性を説明している2)。このラウンドテーブルでの学びは、単に仕事の効率化を図るだけではなく、自分でも気がついていなかったことが言語化され、本質的な問いとなって自分に戻ってくる。この学びは学習者自身の気づきによって意識が変容し、新たな実践への道を見いだしていくことを可能とする。それは、意識変容から行動変容につながるおとなの学び方といえる。
ラウンドテーブルでの「語り手」は自分の実践を説明すると共に、その実践や出来事の意味を物語る。語り手は自分の経験やライフヒストリーを物語ることで、表に出してこなかった自分自身の信念や価値観が明らかになることを体験する。また、「聴き手」は語り手のライフヒストリーや語りの文脈を丁寧に聴き取り、その後に物語った内容の意味や事実の確認をしながら問いかける。そして語り手の実践を追体験する。
本稿ではまず、福井大学連合教職大学院の事例を紹介する。福井大学連合教職大学院は、学校教員によるラウンドテーブルを開始した教職大学院であり、筆者も複数回参加している。また近年、東京や宮古島などにも活動を広げ、多くの学校教員が参加している。次に、星槎大学大学院で行うラウンドテーブルの事例を紹介する。星槎大学大学院で行われるラウンドテーブルの参加者は、小学校や中学校といった学校教育法の1条校以外の専門学校の教員や医療系、介護系従事者など、その背景は多様である。筆者は、このラウンドテーブルをつくる役割も担っている。そこで、次はラウンドテーブルの場をつくる側からの視点で、ラウンドテーブルを捉えていく。そして最後にまとめとして、ラウンドテーブルにおける参加者の発言や感想から、実践と省察を往還するラウンドテーブルの役割について述べる。
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