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はじめに
ずいぶん前になるが,実習指導の枠組みを,急に変更しなければならなくなったことに理不尽さを感じ,実習施設に足を向けるたびに,イライラしてしまったことがあった。理由の説明がないままに,通常の2倍近くの学生を担当することになったのだった。そんなイライラした様子を学生に見せて,学習への影響が出ないようにしなくてはと心していたつもりだったのだが,さて,実習が終わり,振り返りのための課題レポートが出てきて驚いてしまった。
ある病棟に配置した学生4名の課題レポートにつけられたサブタイトルすべてが「怒り」に関連したものだったのである。「実習中に感じた怒りについて」「感情を表現し合う環境─怒りの感情を通して」という具合であったが,このとき筆者は,教員としての自分のイライラの感情に改めて直面させられ,学生に自分の感情が伝染していったのではないかと考え,ふがいない自分を発見し愕然とした。
実習中に学生に影響する人物は,受け持ち患者を中心に臨地指導者やスタッフなど,担当教員以外にもさまざまな関係者がいるし,家族や友人などもしかりである。また,実習施設の状況も影響するであろう。しかしこれほど一貫して,自分が感じているのと近い感情を扱ったサブタイトルが並んだことはなかったため,自分のなかの怒りを見透かされたような不安が生じた。これは筆者にとって,教員として感情がコントロールできていない自分をつきつけられたような体験となった。
一方で,日々の教員生活のなかで,自分の感情や体験について振り返る場はほとんどない。職場ではもっぱら教育の対象である学生については語ることができても,教員としての自分について語る機会は,仕事が終了した後のアフター5に位置づけられるものであった。しかし,実習が学生,患者,教員や指導者でつくられるものであると考えれば,教員が自分の感情や思いを語ったり,それによって自己の体験をもう一度確認してみる場が必要なのではないだろうか。
こうした背景から筆者は,教員の仕事についてのさまざまな体験を言葉にする場,支え合える場として,ピアサポートを目的としたグループをつくることにした。そして,そこでは教育体験が語られ参加者に共有され,さらには新たな展開がみられた。
そこで,本稿では,筆者の実施するピアサポート・グループについて紹介しながら,グループのなかで各々の教育体験がどのように共有され新たな体験をつくっていくかについて述べる。さらに,自分の感情を大切にする場としてのピアサポート・グループの意味や限界についても言及したい。
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