増大号第2特集 看護学生・教員エッセイ─入選エッセイの発表
学生部門
私が目指す看護
西山 育代
1
1相生市看護専門学校
pp.644-645
発行日 2016年8月25日
Published Date 2016/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663200567
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「ほら,お母さんもついて来てくれてるよ」手術室へ向かう私に看護師が声をかけた。「来なくていい。あっちに行って」私のすぐそばをついてきていた母をちらっと横目で見てそう言い放った。
“幸せな家庭をもつこと”私にはもうそれを叶えることはできない……。まだ18歳。卵巣がんという病気を理解するには余りにも若すぎた。どうしても自分の身に起きていることが受け入れられず,その苦しみのすべてが両親へとぶつけられた。何度となく襲ってくる絶望感。その度に両親を困らせ悲しませた。実はこのとき,両親には私の命の期限が迫っていることが告げられていた。“残された時間がこんなふうに過ぎていくなんて……”両親にとってはたまらない思いだっただろう。時には,泣き腫らした目を看護師の計らいで冷やしてから病室に入ることもあったそうだ。後に,看護師のみなさんが両親を支えてくださっていたことを知った。支えてもらっていたのが自分だけではなかったこと,迷惑をかけた両親の支えになってくださったことへの感謝で一杯になった。「看護婦さんには本当に助けられた。あの看護婦さんたちには頭が上がらへん。恩人や」そう言いながら涙を流した両親の姿を私は一生忘れない。この生かされた命を無駄にはできない。これからどのようにして生きていくことが自分を役立てることにつながるのか。“自分には恩返しの道,看護の道しかない”そう思う心に一点の迷いもなかった。憧れから決意に変わった瞬間だった。病気で苦しむのは患者だけではない。患者を思う家族の気持ちにもしっかりと寄り添うことのできる看護師になりたい。“心に寄り添う温かい看護”これが私の目指す看護である。
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