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はじめに
臨床実習での学習において,看護学生と臨床実習指導者(以下臨床指導者)の関係は,非常に重要なものである.しかし,山本1)が指摘しているように,看護学生は臨床指導者について「無視・無愛想」「威圧的」「批判しか言わない」等の感想を持ち,一方臨床指導者は看護学生について「社会性や基本的な知識・技術のない人が多い」等と感じており,両者の問には大きな隔たりが生じている.この隔たりの原因の1つとして,看護学生・臨床指導者のそれぞれが注目する視点の違い,すなわち認知枠組みの違いが存在すると考えられる,そこで本研究では看護学生の臨床指導者を見る際の認知枠組みに着目した.
G.A.Kelly2)は,他者についての見方は,その人が外界を認知する方法によって心理学的に方向づけられるという理論を提唱し,これに基づいて,RCRT(Role Constructs Repertory Test)という個人の認知枠組みを明らかにする方法を考案した.
この方法では,多様な対人的な意味をもつ15名の人物をあげさせ,3人1組の15の組み合わせを作る.この3人を比較して,2人には共通に見られるが,残りの1人には見られない重要な特徴(これをconstructと呼ぶ)と,それとは反対の意味をもつ特徴(これをcontrastと呼ぶ)をあげさせる.このconstructとcontrastの中に,個人が他者を見るときの視点や枠組みが現れると考えられている.
近藤3)は,これを使用して,児童と教師の問に生じる問題を検討している.教育場面の問題は,児童・教師どちらかのもつ問題によって生じるのではなく,両者のもつ認知枠組みの不一致によって生じると捉えている.近藤は,この不一致によって生じた不適応の例として,小学生の不登校事例をあげている.例えば,大人への甘えの強い子供と,子供を甘やかすことが苦手な教師という組み合わせや,逆に自己抑制的なスタイルを身につけてきた子供と,母性的なおおらかな教師という組み合わせの場合に不登校は生じており,問題の背後には明らかに両者の認知枠組みの不一致が存在する.
看護学生と臨床指導者の関わりは,一定の限られた期問のものであり,臨床指導者が学生の学習プロセスや,患者との関わりにおける文脈を知るには限界があり,同様のことが学生にもいえる.さらに臨床の場は,臨床指導者にとっては日常場面であるが,学生にとっては新奇で特殊な場面である.こうしたことによって,両者がもつ双方の認知枠組みには違いが生じることが予測される.
しかし,これまで多くの記述的な研究はなされているもりの,看護学生の認知枠組みを具体的に捉え,その枠組みの中での臨床指導者の位置づけを明確に示したものはない.そこで本研究では,①看護学生が臨床指導者を見る枠組みを明らかにすること,②さらにその枠組みの中で個々の臨床指導者がどのような位置に置かれているのかを明らかにすることを目的とする.
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