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はじめに
本稿の課題は看護学生における「入学前課題」を概観することである。看護学教育における入学前教育がなぜ議論されるようになったのか,経緯を歴史的に整理するところから始めたい。
1990年代末から,18歳人口の減少とあいまって,社会的関心として高等教育機関へ進学する学生の「学力低下問題」が話題になった。当初,学力問題として認識されたことであったが,実際には学力だけにとどまらず,「学習意欲」「学習目的」「学習習慣」「規範意識」などから派生した問題であった。大学の大衆化時代を迎え,多様な学生が入学してくる状況があり,それまでの大学教育では通用しなくなった時代的経緯のなか,高等学校から大学への円滑な移行を図るための対応として初年次教育がクローズアップされるようになった1)。
その一方で,入学者選抜方法の多様化により,入学までの数か月を無為に過ごす学生層が出現し,入学前からの準備教育としての入学前教育が広がりをみせるようになった。文部科学省中央教育審議会高大接続特別部会では,入学前教育について「早い時期に合格が決まった者に対して,大学での学修の円滑な移行のために入学前に取り組むべき課題を提示したり,準備教育を行うなどの取り組みが重要である」2)と伝えている。日本の初年次教育や入学前教育の議論は,高等学校と大学を接続するため(高大連携や高大接続)の議論が主流となって展開されてきた。
一方,看護学教育においては2000年前後から,看護専門学校を希望する学生を中心に多様化(学習経験格差・入学動機の多様化・世代間差異・多様な就業経験を持つなど)が見られている。しかし,2008年の研究では,看護学教育における初年次教育や入学前教育の議論はほとんど見当たらなかった3)。これは,看護学教育が専門性のある教育であり,入学時より習得する知識や技術の体系が明確化され,看護師国家資格取得にむけた目的が科せられるという意味において,ニーズが表面化してこなかったとも考えられる。ただ,ここ最近,入学者の多様化とともに,入学者選抜の多様化もあり,看護学教育においても初年次教育や入学前教育を語らなければならなくなった現実がある。
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