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はじめに
ボディメカニクスは,看護者の作業姿勢や移動や移乗,姿勢の保持を援助する方法として一般に欠かせない理論である。果たして,ボディメカニクスの考えは介助者・被介助者にとって無条件に有益なのだろうか。姿勢や動作の援助は,単なる「動作」の介助ではなく「生活行為」の支援であり,介助する人の健康も守られなければ意味がない。ボディメカニクスに関して,もし介助者が無理をしていたり,被介助者に我慢させていることがあれば,この方法が本当にベストかどうかを考え直してみる必要があるのではないだろうか。
ボディメカニクスの看護領域への登場は第二次世界大戦直後である。援助作業を通じての「不必要な疲労や緊張を防止するために自分自身の体を効率的に使用する」方法として推奨された。その後ボディメカニクスは看護の実践の基礎的な理論として教育に取り込まれたが,看護者にとっても患者にとっても効果を示すエビデンスが不明確なままであるという指摘がある1)。
筆者は,臨床の実践において,ベッドサイドでの姿勢と動作を介助する際にボディメカニクスを実践してきた。その立場で憚らずに言うと,ボディメカニクスは優れた理論だけれども,看護の援助技術として実践するときには,その限界や弱点も意識して活用する必要があると考えている。それは次の3つの理由による。
第1にボディメカニクスはもともと物体の物理学・力学的法則に基づいた理論である。第2に,看護におけるボディメカニクスは援助者主体の「介助」の視点を前提にしている。第3に,最も重要なことは,ボディメカニクスでは腰痛を予防できないという点である。これらの限界や問題点を認識したうえで,援助を受ける人(動く人)と援助をする人(介助者)にとって安全で快適な方法を探ることが大切である。また,「動く本人を主体とした援助」を行うためには,ボディメカニクスの限界やその弱点をいかに補足すべかの視点を持ち合わせておく必要がある。以下ではボディメカニクスを活かし,ひとの自然な動きを支援するためのヒントを述べたい。
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