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はじめに
本稿では,看護教育をめぐって,現在ドイツでどのような大きな動きがあるのか,昨年(2012年)3月に実施した現地調査の成果も踏まえて,最近の動向を紹介したい*1。
従来ドイツでは看護師の養成は「職業専門学校」等の職業教育の学校で行われてきた。これに対し近年,大学にも看護課程が設けられるようになり,大学においても看護師の資格を取得できるようになった。その際,「二元制学習課程」がひとつのモデルとされている。「二元制度(デュアルシステム)」とは,企業における職業訓練と職業学校への通学が並行して行われるドイツの職業教育の根幹をなす制度として知られている。大学に進学しない生徒は,このシステムによりマイスターとなることを目指すというものである。しかし大学進学率の上昇,従来のマイスター教育が時代の要請と必ずしも合致していないなどの理由から,この「デュアルシステム」にだんだん人気がなくなってきた。そうした背景のなかで,大学レベルでの「二元制度」の構築が,最近のドイツの高等教育における新しい動向として注目されている。こうしたシステムが看護の領域でも導入されるようになった。
一方,広くヨーロッパの教育改革というレベルで近年の動向を展望すると,現在「ボローニャ・プロセス」という大学教育の改革,「コペンハーゲン・プロセス」という職業教育の改革が,ヨーロッパのほとんどの国が参加して進められている*2。また,この2つの大きな改革の進行にドッキングして,ヨーロッパ全体に通用する「資格枠組み」を作ろうという壮大な構想が考えられている。各国ごとに異なるさまざまな資格を相互に参照可能なものとし,それと同時に,職業資格と学校修了資格もまたお互いに比較可能なものとしようという試みである。このような大きな流れのなかで,ドイツの看護教育の改革も進められているということができよう。
以下では,まずドイツの看護教育の特色について述べ,そのなかで現在どのような改革が進められているかを概観する。次に,ボローニャ・プロセスとコペンハーゲン・プロセスを中心に目下進行しているヨーロッパレベルでの大きな動きをたどりながら,それらのなかで看護教育はどのように位置づけられるのかを見ていく。最後に,ドイツの看護教育は,われわれにどんな示唆を与えるのか,若干の言及をしてまとめとしたい。
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