連載 実習の経験知 育ちの支援で師は育つ・15
躓きを促す
新納 美美
1
1北海道大学大学院理学院自然史科学専攻
pp.988-993
発行日 2012年11月25日
Published Date 2012/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663102251
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専門職魂を燃えさせるために
2週間の実習も折り返し地点を迎えると,学生たちはフィールドに慣れ,対象理解も進み,学生なりに考えた支援計画が提出されます。記録用紙には,援助によって期待される結果や評価の方法なども記述されています。にもかかわらず,その援助が対象者にとって何をもたらすのかと問いかけると,答えられなくなる学生がほとんどでした。これでは,ケアを客観的に評価することなどできないだけでなく,びっしり記述してあるアセスメントもあやしいということになります。はじめは少々がっかりだったのですが,学生と関わるうちに,これが底力を引き出すポイントになるということに気づかされたのでした。
それ以来,私自身が育ちの支援を続けるなかで探求し続けてきたこと,それは,学生を躓かせることです。ただ単に躓かせる*1のではなく,いかに“救いのある躓き”を提供するかが勝負どころです。救いのある躓きは心のなかに宿りはじめた専門職魂を燃えさせるきっかけとなり,学生は眼の色を変え腹の底から本気を出します。すると,まるで化学変化のように,バラバラに入っていた知識や技術が結びつきはじめるのです。これまでお伝えしてきた育ちの支援は,この介入を成功させるためにあったと言っても過言ではありません。
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