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人生の深みを知り感受性を磨く
私は日本看護協会の広報部で,協会ニュースの編集をしたり,マスコミの取材に応じたり,「看護の日」のイベントにかかわったりしています。看護職で,日本看護協会に入職する前は都内の大学病院に勤務していました。看護の世界に入ったのは30代半ばで,最初に入った大学では国文学を専攻し,源氏物語を卒業論文にしました。なので,私は皆さんに比べて,臨床の経験は少ないのですが,文学に関する知識は,ちょっとだけ,詳しいです。皆さんがお勤めの学校では,文学作品を味わう時間はあるでしょうか。どうしても,カリキュラムは実践的な内容が優先されてしまうのが現実だと拝察します。看護系大学でも「文学」が選択科目に組み込まれているところは少ないですね。文学や哲学といった類は,抽象的で,看護職になるために必修科目としてイメージしにくいことでしょう。たしかに看護技術に直結する情報などないし,役に立たないと思われるかもしれません。でも,患者や対象者の人生に寄り添う看護職に,文学は必要ないでしょうか。看護の仕事は,老若男女,あらゆる層が対象です。文学は,看護をするにあたり大切な「人間というもの,人生の深み」を知り,患者さんが今おかれている状況,精神的,社会的な意味をも含めた苦悩を理解する手掛かりになります。優れた文学は,いつの時代にも通用する普遍性をもっています。
さらに,病むもの,弱い存在をケアする看護の仕事は,時として自己の感情を疲労させます。良質の作品を鑑賞し,感受性を磨くことで,気分転換,ストレスマネジメントを図ることもできます。もし私の趣旨にご賛同いただけたら,学生の皆さんとも共有してほしいと思います。超高齢社会の日本,これからが看護の力の発揮のしどころです。卒業生の皆さんが,生涯看護師として働き続けられるための「気分転換上手,へこたれない心の基礎づくり」に,微力ながら貢献できれば幸いです。
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