名詩鑑賞・1
—宮澤賢治—永訣の朝
長谷川 泉
pp.38-39
発行日 1949年9月15日
Published Date 1949/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906530
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「春と修羅」第1集中「無聲慟哭」の卷頭にある宮澤賢治のこの詩は大正11年11月27日妹トシ子の死に際し即時につくられた。花卷方言でくりかえされている「雨雪をとつてきて下さい」という妹の言葉は高熱と苦しい呼吸の中からあえぎあえぎうつたえられたもの。愛する妹の喝をいやそうとみぞれ空の中へ純白の雪の一わん,而もつややかな緑の松の枝から妹の今世の最後の食物をとつてくる兄のきよらかな愛情が人の心をうつおそらくはまつしろな雪の一わんは處女の死の床にそなえられる情淨な最後の食物に最もふさわしいものであろう。
おら おらで しとり えぐも──こゝには既に煩悶もなく,あきらめを越えた決意があたらしく燃えている。それは「やさしくあをじろく燃えてゐる」女性の生命の最後の輝きである。清い感動の中に強いリズムで,妹の「死」は,すでに大きな夢,宗教の世界にあまがけつた生命力のほめ歌に昇華している。
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