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特集『学びは越境する 異領域の導き手から看護へ』は,非常に興味深い内容であると同時に,あらためて“看護”のもつジレンマが時代を超えて普遍的なテーマであることを痛感しました。なかでも本誌に初めて社会学者の上野千鶴子氏が登場し,「看護」に関するその見解を冷静に,あるいはユーモアを交え語られていたことが印象的でした。私自身,大学院で「医療社会学」の立場から論文をまとめた経験を持ちますが,社会学という学問を自分のなかで咀嚼するまでに,かなりの時間を費やすことになりました。社会学における医療(看護)に関する視点は,医師─看護師の関係,患者(その家族)─医療者の関係において客観的に分析が行われています。ただし,看護教育を中心とする社会学的な分析はそう多くはなく,上野氏が「看護」についての見解を公的に発言されることは初めてであり,少なからずこの世界において新たな風が吹く機会になるものと期待しています。
私は2000年の前後に,「衛生看護専攻科(進学課程)」の場で6年間看護教育に携わりました。この時期は看護大学の創設が相次ぎ,進学課程においても学生が不利益を被ることがないような教育環境を維持することが大事ではないかと考えるようになりました。そのためには教員として学生に関わる以上「幅広い視野で物事を考えられるような」要素を培うことが必要と考え,いったん退職して自ら大学(社会福祉学部)に進学する道を選びました。折りしも「介護保険制度」導入の時代でした。社会福祉学部で学ぶなかでは,「看護教育─とくに進学課程と准看護師制度の在り方」を研究材料として考えました。この研究を進めるうえで,歴史上における看護の成り立ち,看護教育制度について,それぞれの時代における政治によって翻弄された感が否めません。その状況下において看護教育の発展に力を注いだ先人たちの努力が今日の繁栄につながっているといえます。とくに「看護の高学歴化」はそれらに携わる人々にとって悲願そのものであったことでしょう。他方,上野氏の指摘があるように,看護の階層性(ヒエラルキー)を生み出すことになりかねないかということが懸念されることを,私も同様に感じて研究メモに記していました。
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