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はじめに
職業的アイデンティティの確立は看護の専門職化にとって必要不可欠であり1),この職業的アイデンティティの形成に看護基礎教育の果たす役割は大きい。自我同一性の心理社会的発達を明らかにしたErikson2)によれば,青年期は職業とイデオロギーへのコミットメントが成長する時期であるが,それは自己のアイデンティティ獲得を発達課題とする時期でもあり,常にその拡散の危機に直面している。
特に2002年度からスタートした高等学校とその専攻科における5年間の一貫教育による看護師課程(以後,5年一貫課程)の学生は15~20歳という年齢層であり,自我と職業のアイデンティティを発達させるという2つの課題を有している。5年一貫課程では在籍数の2.7%が2008年度に転退学しており3),職業的アイデンティティの低下は看護を学ぶことからのドロップアウトにつながる可能性がある。このことからも,5年間のスパンでの職業的アイデンティティ形成に向けた教育のあり方の検討が必要である。
これまでも看護職を自分の職業と決定するまでのプロセスを職業的アイデンティティの視点から検討する研究が行われてきた。それらは,職業的アイデンティティの経年的変化4, 5)や,入学動機5, 6),対人関係援助能力7)との関連を明らかにしている。山内ら8)は,看護系の大学生を対象とした質的な研究で,学生が看護職に適合感を得ていく過程での臨地実習の体験の重要性を示した。Quinby9)は,看護師のよりよい援助をしたという葛藤が職業的な成熟を獲得することや,自尊心を強めることを明らかにしている。
これらからは,臨地実習などで困難な状況を乗り越えて得た自信や,自己に対する肯定的評価である自尊感情などが,看護学生の職業的アイデンティティに影響を与えていることが推測できる。このように看護学生は臨地実習の体験から自己変化したという意識を内在化させていると考えられるが,臨地実習が職業的アイデンティティに与える影響について量的に明らかにした報告はまだ少ない。
以上のことから,5年一貫課程の看護学生の職業的アイデンティティの形成を促す教育視点を明確にするためには,経年的な変化をみるとともに,看護職を自分の職業としてコミットするための臨地実習の影響に着目することが重要であるといえる。本研究では,5年一貫課程の看護学生の「職業的アイデンティティ」の経年的な変化と,臨地実習が「職業的アイデンティティ」に与える影響を明らかにすることを目的とする。
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