特集2 更年期だけではない性差がもたらす身体の異変 性差医療の現在・未来
これからの医療のあり方とは―性差にもっと目を向けよう
天野 恵子
1
1千葉県衛生研究所
pp.698-704
発行日 2006年9月1日
Published Date 2006/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1663100349
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- サイト内被引用
性差を考えさせられた患者に出会って
■狭心症様症状ながら狭心症ではない女性
私の専門は循環器内科である。1982年,高校時代の同級生が毎日の狭心症様症状でたずねてきた。種々の心電図検査からは”狭心症”と確定診断できず,硝酸薬も無効であった。同様の症状の患者が重なり困っていたところ,1985年の米国循環器学会で「微小冠血管障害による狭心症 (microvascular angina)」の概念を知った。更年期前後の女性にこのような狭心症様症状が稀でないことも実感した。しかし,実際の医療の現場ではこのような女性たちの胸痛は「心臓神経症」と片づけられて,適切な説明もないままになおざりにされていた。QOLを極端に障害するにもかかわらず,比較的予後がよいためである。
一般に,女性は同年代の男性にくらべて冠動脈に有意狭窄病変を持つ割合が少ないことが報告されているが,その一方で非冠動脈疾患による非定型性胸痛の頻度が高いといわれている。通常,冠動脈造影で高度狭窄がなく,アセチルコリンやエルゴノビンによる冠攣縮誘発試験にて,造影上有意な攣縮が誘発されなかったときに,非定型性あるいは非心臓性胸痛症候群と診断するが,胸痛の原因が非心臓性と診断されてきた患者の少なくとも一部の例で,冠動脈造影で観察することのできない冠動脈の微小血管の器質的ないしは機能的な異常によって胸痛が生じていることが近年明らかになってきている。
Copyright © 2006, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.