今月の臨床 性差医療
「性差医療」: 現況と展望
天野 恵子
1
1千葉県立衛生研究所
pp.830-835
発行日 2006年6月10日
Published Date 2006/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409100720
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性差医療とは
性差医療(gender─specific medicine)とは,男女比が圧倒的にどちらかに傾いている病態,発症率はほぼ同じでも男女間で臨床的に差をみるもの,いまだに生理的,生物学的解明が男性または女性で遅れている病態,社会的な男女の地位と健康の関連などに関する研究を進め,その結果を疾病の診断,治療法,予防措置へ反映することを目的とした医療改革である.臨床の現場で,痛風が圧倒的に男性に多く,膠原病が女性に多いことは誰もが認識している.また循環器では,男性が若いころから心筋梗塞で命を落とすのに対し,女性が閉経前に心筋梗塞にかかることは非常に稀である.女性の虚血性心疾患は,閉経後10年以上経ってから増え始め,75歳を超えてから急速に増加する.最終的には心筋梗塞での死亡数は男女で差がほとんどないが,経過がまったく異なる.
現在,人の遺伝子の解読がなされ,癌から生活習慣病に至るまで,病気の発生に関与する遺伝子の検索が世界中で行われている.しかし病気の発生は遺伝子だけで決まるものではない.環境の因子を大きく受けて発症することはよく知られている.遺伝子と環境,性差も含め生理的,生物学的要因が織り成す病気の発症過程への影響を解明するのはこれからの科学である.ジェンダーと病気の関連も,時代とともに変化する.女性の社会参加が増えるにつれ,病気の形態も経過も変容する.すでに産婦人科分野では,結婚年齢の上昇に伴い子宮内膜症の増加,高齢者の妊娠に伴う種々の問題が台頭している.
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