特集 地域保健活動の焦点—21世紀を目前に
III章 地域保健活動21世紀の焦点
これからの感染症対策
尾崎 米厚
1
1国立公衆衛生院疫学部
pp.1091-1095
発行日 1999年11月25日
Published Date 1999/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662902980
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再び感染症の時代へ
わが国では感染症の時代は終わり,これからは非感染性慢性疾患の時代であると,少なくともごく最近までは戦後の疾病構造の変化が解釈されていた。そして,公衆衛生活動の焦点もその方向へシフトしていった。しかし,HIV感染症の出現や腸管出血性大腸菌0157の大流行など社会問題化するような感染症の話題が次々と出てくるようになり,再び感染症を見直す必要性が叫ばれるようになった(新興再興感染症:emerging and re-emerging diseases)。このような状況のなか,感染症対策も危機管理(リスクマネージメント〉の1つとして再認識されるようになり,これが保健所の機能の一部として期待されるようにもなった。
現在は感染症の逆襲の時代であるとして世界的にも感染症対策が重視される状況になっている。この背景には,微生物学の進歩により従来より存在していた疾病の病原体が明らかにできるようになったという側面もあるが,南北問題の深刻化による貧富の拡大,飢餓および地域紛争などによる多数の難民,大規模な開発による自然破壊および生態系の変化,地球の温暖化,人間・動物・食品などの国際的な移動の増加と高速化,抗菌剤使用の急増による薬剤耐性菌の増加,医療技術の進歩やAIDSの登場などによる免疫能低下宿主(易感染性宿主)の増加,人畜共通感染症への認識の低下,医学教育における感染症教育の軽視(特に細菌学や寄生虫学が軽視され研究者が不足している)といった,現代社会,現代医学の問題点や感染症を相対的に軽視してきた公衆衛生の問題点が関係している。したがって,新しい感染症対策が求められている。
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