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早期介入の対象と母子関係に注目することの意義
歴史的にみると,早期介入は米国におけるスラム街のような貧困層を対象とした活動や,知的・認知的ハンディ・キャップをもった子どもに対する早期養育訓練などから始まったようです。今日では,より心理的・社会的な側面が重視されるようになっており,援助対象も広がってきています。たとえば,近年増加が指摘されている育児困難,育児不安を訴える母親は,すでに母子保健活動の援助対象として明確に位置づけられています。あるいは,産後うつ病やその他の精神疾患など,母親側の精神科的問題に対しても,地域保健活動は十分に機能してきました。
これらの活動の多くを,私たちは「母親への子育て支援」としてとらえてきたわけですが,同時に,乳幼児の「心の発達」に対して予防的に関わっていることに他なりません。たとえば,母親の抑うつと子どもの心の発達との関連を検討した諸研究によれば,抑うつ状態は,子どもからの信号を読み取り,適切に応答する母親の機能(情緒応答性,感受性)を低下させる結果,乳児が不活発になること,乳幼児の情動の発達や,母親にも心があることを理解する「心の発見」,あるいは対象像・自己像の形成,言語や社会的スキルの発達など,多くの領域における発達を阻害することが明らかになってきています。また,愛着研究においても,抑うつ的な母親との関係の中で育った1歳児が,見知らぬ場面で不安を感じても,母親に助けを求めようとせず,かえって母親を避ける傾向がみられることなどが報告されています。これらの知見は,「子育て支援」としての活動が,乳幼児の心の発達に対しても十分に貢献していることを示す根拠の1つと考えてよいと思います。
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