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はじめに
1998年6月末に,米国のラピッド計画専門委員会は,その夫最終報告書の原案として商用周波数電磁界と小児白血病や成人白血病との因果関連から,電磁界による発がんの可能性(possibility)を認めた。翌日にはCBSネットワークや共同通信を介してこのニュースは世界を駆け巡った。日本も例外でなく,主要新聞がこぞってこれを取り上げたことは記憶に新しい。読者には耳新しいラピッド計画とは,米国が1992年,エネルギー政策法案の中に,RAPID(Research and Public Information Dissemination)計画という条項を設けて,1997年までに,6500万ドルにおよぶ予算を計上して発足した計画で,米国エネルギー省および国立環境衛生科学研究所によって推進している。その目的は,①発電や送電および電気エネルギ可の使用に伴う電磁界の曝露が,ヒトの健康にリスクを与えるか,②もし与えるならば,そのリスクはどの程度か,リスクをこうむるのはだれか,どのようにすればそのリスクを軽減できるか,ということを明らかにすることである。対象は,60Hz(ヘルツ)の商用周波数電磁界である。当初は1997年に終了予定であったが,1999年の1月に最終報告書が提出される。これまでに,電磁界の健康影響に関する,細胞レベルの研究,動物レベルの研究,ヒトを対象とした疫学研究それぞれの結果が発表されている。最終報告書を取りまとめるための原案づくりの段階で専門委員会の採択結果が,マスメディアに流れたことになる。1月に出されるラピッド計画最終報告書を世界が注目しているといってよい。ラピッド計画の詳細は,ホームページhttp://www.niehs.nih.gov/emfrapid/home.htmを介して知ることができる。
しかし,電磁界が世間で問題になるのは,今に始まった訳ではない。そもそもは100年前のエジソンに遡る。1882年,ニューヨークで直流による電灯照明事業が開始され,1896年にナイアガラからバッファロー間で3相交流長距離送電が開始されたが,この時第一次の安全性論争があった。直流と交流の論争である。ちなみに,わが国では1895年に3相50Hz,1897年に3相60Hzの発電所が建設されている。ほぼ1世紀前から,人類は人工的に造り出された電気や電気に伴って発生する電磁界に徐々にさらされることになった。1960〜1980年までは,電磁界の電界影響が問題となって,第2次安全論争が起こっている。
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