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要約
タイのエイズ流行は,同国内で最も急速に深刻化してきた公衆衛生問題であり,社会経済の発展にも影響を及ぼしてきた。特にタイ北部は,全国のエイズ患者の50%を占めておりエイズ問題は深刻である。地域社会で増え続けるPWHIV(HIVに感染した人々)に対する対策として,2〜3のNGOを中心としたPWHIVプログラムの試みが1993年頃から始まった。
本論では,タイ北部を中心に活動している―NGOのPWHIVサボートプログラムについて効果アセスメントを実施した結果を報告する。1995年7月から1996年6月までの1年間にPWHIVサポートプログラムの支援を受けた58人(男:47,女:11)のPWHIVについて質的研究を行った。その結果,本研究の対象においては,HIV感染によりさまざまな精神社会的ストレスを受けている状況が明らかになった。特に「差別や偏見」に関しては,約80%のPWHIVは家族,友人,近所の住民から差別や偏見を最低一度は受けており,そのうちの5人は家族からの継続的な虐待と地域住民からの執拗ないじめを体験し,他県に転居していたことが判明した。またPWHIVが抱える問題として,健康状態(病気の悪化と死への恐怖),家庭内経済状態の悪化,子どもの養育に関するものが最も大きかった。このような中で,PWHIVサポートプログラム(継続力ウンセリング,家庭訪問,職業復帰トレーニングとセルフ基金の貸与,必要物資と子どもの養育や教育費などの支給援助,PWHIVセルフヘルプグループ)は個々に即したものとして効果があった。しかし,増え続けるPWHIVに対して,地域社会の中で将来もひきつづきPWHIVサボートとケアプログラムを円滑にすすめていくためには,さまざまな課題があり,将来に向けての新たな対応が必要となる。
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