特集 保健活動のパラダイム・シフト
[学際からのアプローチ]
教育主導型から学習者援助型へ—教育学の最新動向
高橋 勝
1
1横浜国立大学教育学部
pp.1000-1004
発行日 1996年11月25日
Published Date 1996/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662901467
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はじめに
近年,教育学を構成する諸原理が,根本的に問い直されてきている。これまで教育と言えば,「教師・生徒・文化財」というトライアングルでとらえられ,教師が,一定の文化財を,生徒にどう伝達するかという構図で説明されてきた。学校教育で言えば,学校教育法(1947年)や最新の学習指導要領に盛り込まれた教科内容の伝達が大きな関心事であり,子どもの生の声や学びへの願望が教育実践に反映されることはほとんどなかった。
こうした教師主導の教育理解は,発展途上の過程にある国々において,共通に見られる現象である。しかし,すでに高度経済成長を達成し,成熟社会の段階に入った日本において,従来の教師主導型の教育システムは,もはや行き詰まり状態にあることは誰の目にも明らかである。子どもを,Homo Educandus(教育されるべき人間)1),すなわち未成熟者と見なして,教育の枠の中に囲い込み,原材料を加工するように教育してきたことが,反省されるに至っている。むしろ子どもであれ青年であれ,まず相手の学びへの要求に耳を傾ける必要があったのではないか。学習者の生きている世界を理解した上で,それぞれにふさわしい学びや自己実現を援助すること。その配慮が全く欠けていたのではないか。
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