連載 保健婦日記・1【新連載】
私の生い立ち
伊藤 芳子
1
1宮城県登米保健所
pp.330-331
発行日 1993年4月10日
Published Date 1993/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900682
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私のルーツ
私は、岩手の山懐で生まれ育ちました。四方をお椀をふせたような山々に囲まれて、真中を川が流れている山村です。川の音が家の南側から聞こえる時は、曇って今にも雨が降り出しそうな時でした。川の音が西側から聞こえる時はどこまでも空が澄んでいました。大人たちは川の音のする方向で天気を予測していました。星は輝いていたし、月はこうこうとしていて、本当に兎がいて餅をついているとかなり大きくなるまで信じていました。日本昔話の世界のようでした。
私は、生家から歩いて一日がかりの母の実家で生まれたそうです。迎えに来た父と私をおんぶした母。四十数年前、若い両親は何を語りながら歩いたのでしょう。その時、お供も一匹いたそうです。ますます昔話の世界ですが、真実です。母の実家では私が生まれた祝いに羊を一頭くれたのです。はじめは首に縄をつけて、父がひいて歩いたのですが、そのうち羊も山道は心細いのか縄をほどいても、てくてく両親について来たそうです。この羊は後に私のおくるみになり、セーターになり、ついには私の血となり肉になったのです。
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