特集 歯科保健
老人歯科保健の意義とこれからの展望
寺岡 加代
1
1東京医科歯科大学予防歯科学教室
pp.327-331
発行日 1992年5月10日
Published Date 1992/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900473
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はじめに
老人の歯科保健は,戦後処理のようなもので,今さら歯の無い人に予防だのケアだの騒いでも意味がないという人もいる。一度抜けた永久歯は二度と生えてはこないし,入れ歯(義歯)になれば虫歯や歯槽膿漏の心配もなくなる。それでは,歯を失なった老人は口腔清掃の必要もなく,食べる楽しみも諦めねばならないのだろうか。確かに義歯になると噛むという機能面での低下は著しく,自分の歯のように何んでも食べられるというわけにはいかなくなる。しかし,歯だけで食べている,さらに言えばおいしく食べているのではない。
食事は味覚だけでなく,視覚,嗅覚,聴覚など総合感覚で楽しむものであることは勿論のこと,食物を口に運び,口唇からはじまり,粘膜や舌に触れ,冷・温・感触をじっくり味わいながら,おいしさを感じる要素も大きい。いってみれば,口腔全体で味わい楽しんでいるのである。これらの感覚を十分生かすためにも,口腔全体を健康かつ清潔にしておく必要がある。一方,不潔な口腔は2次感染,口臭の原因ともなり,全身管理や,対人関係の面でも口腔ケアは欠くことができない。
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