特集 歯科保健
成人歯科保健の現状と老人保健事業
新庄 文明
1
Fumiaki SHINSHO
1
1大阪大学医学部公衆衛生学教室
pp.534-539
発行日 1990年8月15日
Published Date 1990/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401900149
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■はじめに
「長生きした人は歯が多い」というヒポクラテスの言葉を確かめようと,1984年に日本青年会議所医療部会が「百歳以上高齢者歯科疾患実態調査」を実施した 1).447名の長寿者の中には,102歳まで歯科医院には一度もかかったことがなく,歯牙,歯槽骨ともに健全で眼鏡もかけずに新聞を読む男性がいる一方で,40歳代から同じ義歯を60年間使用している女性もいた.この調査を企画し,長寿で有名な徳之島の男性をも訪問した歯科医師から私は,翁が80歳の時に歯科医院ですべての残存歯を抜いて以来,40年間は歯槽堤で家族と同じ食事をしていたという意外な結果に驚き,「われわれ歯科医師は一体何をしているのだろう」という率直な感想を聞いた.
人生80年時代といわれるようになって久しいが,永久歯の約半数は60歳において喪失しており,平均寿命と歯の平均喪失年齢との間には大きな乖離を生じている.高齢社会において歯科保健の目標は何なのか,根本的な問いかけがなされている.
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