連載 ケーススタディ—アルコール依存症への理解と援助・5
アルコール依存症を夫に持つ妻との関わり
坂本 瀧子
1
1東京都大田区雪谷保健所
pp.155-161
発行日 1992年2月10日
Published Date 1992/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900434
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はじめに
保健婦は区民の生活を背景にした様々な相談を受けている。それは保健相談の時であったり,家庭訪問の場面であったり,あるいは電話で訴えてきたり,あらゆる機会が相談の場になっている。そんな中でアルコール問題を抱えている人の相談は,その内容の深刻さ根深さに,保健婦の方が圧倒されることがしばしばある。「夫が暴れているんです。何とかして下さい」と。保健婦は今,苦しんでいる人の相談を受ける専門家であると考えている。相手方の立場に立って話を聞き,共感し,問題点や主訴とニードの確認をして,何ができるのかをお互いに確認する作業が必要であると思う。しかしながら,その相談を十分受け止められないまま終わってしまう場合がある。自分の中にアルコール問題を抱える人への対応が不十分な中で,面接を何回か経過している間に,相談者は新たな問題を投げかけてくる場合が時としてある。
私がアルコール問題と関わった当初は,保健所で酒害相談クリニックを開設しているところはほんのわずかで,主として自助グループに結びつけるのが主な仕事となっていた。それもなかなか結びつかず,どうしてかと,徒労感とあきらめにも似た気持ちがあった。そんな頃に1人のアルコール依存症の妻(ここでは“彼女”と称する)との出会いがはじまった。
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