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生きる―鐘
田邊 順一
1
1日本写真家協会
pp.83-86
発行日 1990年2月10日
Published Date 1990/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662900014
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富山県朝日町笹川。ここで生まれ育った勝田忠雄さん(88歳)は妻のすいさん(74歳)と2人で暮らしている。だが,夜だけを別々にすごしてきた。忠雄さんが母校の小学校の宿直をしているからだ。もう20年にもなる。宿直室で仮眠しながら,午後9時,0時,午前3時の3回,校舎内を巡回する。3回目の巡回がすむと30分ほど仮眠。次は新聞配達だ。50ccのバイクで40軒に配る。全く年齢を感じさせない。
妻のすいさんもよく働く。朝5時には自転車で20戸分の新聞を配る。それがすむと菩堤寺に行き,鐘をつく。11回の鐘の音が朝のしじまを破る。すいさんは念仏を唱えながらついていく。この間が絶妙だ。それだけに難しい。誰でもできるというものではない。信心深いすいさんは年1,2回,泊りがけで京都の西本願寺に出かける。その間,夫に鐘つきを頼んだことがある。その節1日目,早鐘のような音に村人は驚いた。2日目,今度は間を意識しすぎて回数を間違えた。
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