発言席
「楽しい」保健事業
鈴木 雅丈
1
1大阪府吹田保健所
pp.619
発行日 1989年8月10日
Published Date 1989/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662207784
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1978年のWHOアルマ・マタ宣言以来,健康観の変化が地球的規模で認識されている。保健事業のニーズにおいても,結核予防とか精神保健法,母子保健法,伝染病予防法,予防接種法など法律を基盤とした対策型の事業から,さらに積極的な市民参加型の事業が求められるのは自然な流れといえる。前者においては,保健事業の対象となるのは,「明らかに病的な状態であるか,肉体的または精神的または社会的に不完全な状態のひと」であり,対象が明確であればこそ,対策に法的根拠を与えることが容易であったわけである。ところが後者においては,「健康から不健康への連続性」が認識の基本となっており,対象が漠然とならざるをえない。したがって,保健事業の対象は全市民である。Health for All,観念的には誰にも容易の理解できよう。しかし,自らが当事者であると市民の1人1人がにわかに認識するのは難しい。そこに老人保健法とこれまでの保健事業関連法の相違がある。気長な取り組みが望まれる。
老人保健事業は,まさに21世紀の時代要請に応えるものである。それが市町村の事業として位置づけられた。そしてこの老人保健事業の理念が,市民の生活そのものから始まるというのであれば,ひとり市町村の力にのみ任せておいて達成されるはずはないのである。そのような一元的システムでは,あまりに多様な市民のニードに対応できはしない。
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