発言席
言いにくいことを言いにくい人に
吉田 素子
pp.809
発行日 1981年10月10日
Published Date 1981/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662206418
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わたしは大正7年生まれ,63歳の農家の主婦です。今の若い方には想像もつかない子育てでした。おしっこでぬれたくらいのおしめは,そのまま干して使えと言われました。石けんを使う等もっての外でした。夜は,くたくたになるので夜中のおしめ替えもできず,朝起きると赤ん坊は背中までボトボトになり敷ぶとんまでぬれる状態でした。昼はたんぼから走って帰ると,声をからして泣きつかれている赤ん坊をみてやることもできず昼のお茶わかしに走り回りました。赤ん坊が母親の顔を覚えるとやりにくいので,顔を隠して飲ませと言われ,お乳を飲ませる時は手拭を顔にかけて飲ませました。昼休みは外に出して日に当ててやりたいと思いましたが,野良仕事のできる嫁はよい嫁やと言われ,日光浴もさせずに育てたのです。
このような生活の中で,何にも言わずただしんぼうして働くのが農家の嫁だとあきらめていた私たちが,昭和32年に生活改善グループを作り,普及員を呼んで学習を始め,《いちばん言いにくいことを,いちばん言いにくい人に言う》ことの大切さを知りました。私の姑は特にきつい人ではなくその頃としては世間なみの姑でした。こうして育てた子供も,今では一人前の社会人として元気で働いています。
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