書評
食生活と健康
中島 紀恵子
1
1千葉大学看護学部
pp.255
発行日 1977年4月10日
Published Date 1977/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205846
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"生活の場"といった言葉をよく使い,またよく耳にする。そして私たちは一度ならず"いったい生活の場とは何だろう"と自問するような体験をもっていると思う。豊川裕之氏の"食生活と健康"は,このような方々にぜひ読んでいただきたい。といっても本書は"……の食事指導"について書かれた本ではない。著者が,まえがきに述べているように"栄養素を中心に考えるのではなく,食の美を探求するのでもなく,健康な生活を中心に,栄養の問題を,しかも地域集団の場から追求した"本である。個人,集団のさまざまな層に出会い活動している多くの保健医療従事者にも,足もとが広がるだろうという意味で,強く一読をすすめたい本である。
本書の構成は8章から成っている。1章から3章にわたって今までの栄養学が,栄養素という分析的手法で洗練された特異概念で成り立ち発展してきた。そのために食物を食べる側の条件といった,きわめて生活的な概念で成りたつはずのものが欠落し,特異概念から栄養という"状態"をみるといった混乱があることを著者は問題視する。この本は,著者のこのような鋭い問題意識によって食生活の理論と実際・実践との結合のしくみが論じられている。これらの章からは,人間と人間のつくった食環境が独特の感情や意見,味覚,食に対する好嫌を通して,特有の食の様式を生み,またそれによって食の行動が規制されていく幾重もの食の文化を著者の導びきによって解く楽しみがある。
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