へき地の保健婦活動 現場からの報告
無医村で働いて
古田 美穂子
1
1熊本県上益城郡清和村役場
pp.276-278
発行日 1975年5月10日
Published Date 1975/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205598
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病院勤務から地域に出て
無医村の保健婦として就職し,はや2年が過ぎた。過疎現象の激しい当村は,面積124km2と広い自然環境に恵まれた所に人口わずか4,800人たらずの農村地帯,四季の移り変わりの景色には目を見張るものがあるが,次の部落まで行くのに時間を要するのには驚いた。10年間の臨床経験を大きなささえとして無医村の保健婦となったものの,西も東もわからない所の地域看護にとびこみ,今更ながらその時の勇気には驚いている。
以前東京女子医大の消化器癌センターに勤務していた頃,胃癌の手術をして退院していく1人きりの老人,癌が進行しているため開腹だけで終えた人,死を直前にしている患者に少しずつ良くなることを話して退院させる時,弱々しく寂しい笑顔で病室を後にする後姿を見るたびに,なんともいえない複雑な気持で自分も無理に作り笑いをしていたことを思い出す。1人暮らしの老人が胃の手術をして退院しても食事療法どころではないはずである。この人達は今後どうするのかと心配はあったもののそれ以上の働きかけはせず,退院という一言でぶっつりきれていた。退院後その手になってくれるのははたしてだれなのか。現在の医療体制の中では保健婦しかないのではないか。
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