世界の保健 医療制度/過去・現在・そして未来……
医療概論=Ⅲ 医療の階層構造と医療システムについて
田中 恒男
1
1東京大学医学部保健学科
pp.673-676
発行日 1973年9月10日
Published Date 1973/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205355
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患者の位置づけ――続
医療は,元来,社会の機能であり,心身に何かの悩みを持ち,又は悩みの起こる可能性を持つ人に対して,その援助・救済のための専門技術を持つ者が直接対応して,その悩みを取り除いていこうとする働きである。従って,社会の機能として考えるなら,患者という立場にある人の悩みを取り除く事に主眼が注がれ,患者に志向して医療を展開しようとする発想が中心とならなければならない。先に触れたウィードの思想もそこに有ったのであり,看護領域で取り上げられている患者中心主義(アブドゥラーら)も,根底において全く等しい考えに立っている。しかし,このような考え方は,東洋医学においては極めて古いものであった。
かつてパーソンズが提示したpatient role(病者の役割)は,病者が社会とどのように対応するかを前提として,権利・義務の二相において内容を規定したものであった。その中でも病者が社会からの被保護対象であると同時に,医療の過程では全く客体視される事は,医療を技術過程として眺めた時に初めて成立する概念であり,病者の実態をアメリカ的にとらえたものといえる。このような状況に加えて,医療技術の進歩は患者の位置づけが未然のまま先行し,ますます患者疎外の実態のみが強調されていく。
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