特集 低所得階層と結核
低所得階層は医療保険で救われているか
吉田 秀夫
1
1法政大学
pp.187-191
発行日 1961年4月15日
Published Date 1961/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1401202390
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序
毎年の厚生白書はとくに総論においてかなり高い格調をもつてわが国の低所得階層が,いかに政治経済政策からみはなされているかを鋭くふれてきた。とくに35年度のそれは,池田総理の逆りんにふれたとつたえられたほど,皮肉にも政府の総選挙で公約した重要政策について真向うからきりこんでいる。この勇気はほめられていいことであろう。曰く公共投資や減税よりも,社会保障が優先しなければならない。現状のままの推移ならば,国民生活における明暗二相の打開はむずかしく,10年後に所得倍増の経済成長をみても西欧諸国の社会保障の水準よりは,はるかに劣ることになるだろうと。低所得階層の最底辺をなすものは生活保護の被保護者世帯であるが,その外わくに約2000万人近い低所得者層が,雇用労働者層にも,農民,市民層にも存在していることはいうまでもないことである。本来社会保障制度はこれらの人々を最重点にして行われなければならないものであるが,わが国の現状は全く逆である。医療保険も例外ではない。結論を急げば,低所得階層にとつて現行の医療保険の仕くみでは救われることきわめて少く,かえつて重荷でさえあり得るということである。以上現状を点検しつつ論証したい。
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