資料 保健・医療の社会科学
保健・医療における社会科学の役割
田中 恒男
1
1東大医学部保健学科
pp.356-358
発行日 1973年5月10日
Published Date 1973/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662205286
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健康権
1973年3月結審をみたチッソ水俣病裁判に関しては,いわゆる四大公害裁判といわれた公害訴訟の一応の結着をつけたものとして,高く評価されている。そして,この結審が他の裁判結果とやや異なるところは,水俣病の因果関係を明確にうたいあげた点であった。当然のことながら,他の公害裁判と多少ニュアンスを異にした結果については,また各方面からの異論もあるであろうが,これら一連の公害裁判の過程のなかで,健康を権利として認識する傾向が高まってきたことは,戦後のわが国の流れのなかで,特筆されてよいことであろう。
健康を権利として主張する発想は,1946年WHOがかかげた保健大憲章のなかにも明らかであるが,健康権そのものの論議は,わが国においてはあまり明確な形で論じられたことはなかった。たしかに自然法的発想のみでは語りえぬこれらの事項は,法的概念としてもさらに追究されなければならないが,健康権そのものと正面から取り組もうとする風潮が生まれたのは,ごく最近のことである。ただし,近代西欧文明のなかで認識される健康権の概念と,わが国で最近語られる健康権の発想とは,若干異なるようである。その結論については,まだ多少の時間を必要とするかもしれないが,いずれにしろ,こうした論議が盛んになったことは喜ばしい。
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