スポット
"自分の歌をうたう"こと
小坂 英世
1
1東京都精神衛生センター
pp.57
発行日 1968年5月10日
Published Date 1968/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662204189
- 有料閲覧
- 文献概要
最高の音楽ジャズ
ジャズという音楽がある。関心のない読者が多かろうが,その普及を義務と考えている私に免じて,少々語らせてもらおう。(よく誤解されているので,最初に断っておくが,ジャズとはアメリカの流行歌やグループサウンズを指すものではなく,19世紀末にニューオルリーンズに発生した即興演奏の発展形態をいうのである)。
ジャズが私を含めてマニヤにとって興味があるのは,演奏家が"自分歌をうたう"ところにある。いわゆるクラシックや軽音楽でも演奏家は楽譜をもとにして,他人と違うもちあじを活した演奏をしようとする。なるほどこれもある意味では"自分の歌をうたう"ことであり,それの成功した場合には一流としてもてはやされる。しかしジャズでは,それ以上のことが要求される。ジャズでは,単に他人と異った演奏を要求されるだけでなく,そのとき原曲は合奏のための約束として必要なだけにとどまり,演奏家は原曲をもとにして彼独自の奔放自在なメロディーを即興的につくり出すことが要求される。私にいわせれば,これこそが,"自分の歌を,うたう"ことである。そしてこういう要求を充たして成立しているからこそ,私どもはジャズを最高の音楽と考えるのだ。
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.