特別論稿
私の保健婦論—保健婦と医療制度
川上 武
1
1杉並組合病院
pp.47-56
発行日 1968年5月10日
Published Date 1968/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662204188
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1.臨床医の限界
第一線の内科系臨床医の技術者としての在り方はいま転機にたたされている。戦後の抗生剤を主とする医療技術革新により感染症が大幅に後退したために,いままで潜在化していた成人病・老人病・精神障害などが臨床医の課題として登場してきた。インフルエンザーの流行でもないかぎり,従来の急性疾患に重点をおいた診療を固執しているかぎり患者数には限度があり,経済的にも苦しくなるばかりか,技術者としても面白くなくなる。一部になんでも抗生剤を使っている臨床医を"マイマイ医者"とよんで軽蔑するむきもあるが,このような生活は臨床医にとっても好ましいものではない。臨床医は経済的にも技術的にも成人病・老人病と本格的にとりくまざるをえなくなってきた。
しかし,成人病・老人病には,その病気の性質,患者の社会条件として感染症とはまったくちがう側面があるので,従来の診療方法ではやがて壁にぶつかってしまう。もともと成人病・老人病という呼び方は便宜的なものであり,病気としては大半が同一で年齢によって,病気の進行の時期(病期)がちがうに過ぎないと考えられる。ただその治療という点になると,病期とか年齢よりくる社会条件が重要な意義をもってくる。成人病では病気が始まってはいるが,労働を完全に止めなくてはならないほどではないので,働きながら治療するのが原則であり,治療というより健康管理にちかい。
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