特集 医療と公衆衛生
国民の健康の現状と医療制度
健康水準の地域格差にみる国民の状態
前田 信雄
1
1東北大学・病院管理
pp.48-53
発行日 1965年3月10日
Published Date 1965/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203334
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地域格差は現代の矛盾の一つ
ベルギーの社会医学者ルネ・サンドは,その著書「人間経済学」の冒頭で,病人になる原因についてつぎのように述べている.「かからなくともすむ病気に悩み,貧乏にあえぎ,また,あまりにも低い生活水準のために,今もなお大勢の人間が知らないうちに年老いてゆくありさまに,われわれは驚きかつ憤りをおぼえずにはいられないことだろう.これらの不幸は,われわれの責任なのである.なぜなら,その根は社会的なものであり,これを抜きとるには,ただわれわれがその気にさえなればよいわけだからである.しかるに,経済の政策はこれだけの事業に必要な財源を拒んで,社会政策の飛躍をとめているのである」と.すなわち,健康というものを集団現象としてみるとき,これを大きく左右するものは,その人口集団の広い意味の経済条件(所得,職業,生活環境など)である.
したがって,為政者自身も認めざるを得ない「高度成長政策」の生みだした社会的経済的ゆがみは,住民の健康改善のうえでも大きな格差をひきおこすことになった.医療従事者の問題や医療費問題とならんで,この健康水準の地域格差の問題は,今日の日本医療保障における大きな矛盾の1つである.
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