特集 保健婦はなにをする人か
保健婦の記録
画一的でない仕事を
小林 富貴子
1
1長野県長野保健所
pp.30-33
発行日 1965年1月10日
Published Date 1965/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203288
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
T地区結核患者をたずねる
数日前S町T地区担当のY保健婦からの連絡で,T地区の結核患者のM宅を訪問することにしていた.Mさんは住民検診で発見された70歳の老人で,排菌患者の療養としては好ましくない生活態度であり,Y保健婦が数回訪問しているがいっこうに改められなく,これがもとで家族が争いあっているというのである.結核患者登録票によると,検痰結果は塗沫陰性,培養4週で陽性である.S町のK医師が主治医で三者併用の化学療法がなされている.家族構成は,妻,息子夫婦,16歳をかしらに孫4人の8人である.老人結核ということで,予防課長にケースの説明をし,訪問のための指示を受けて,私は出かけた.
約1時間10分でS町についた.バスの乗換え場所でY保健婦が出迎えてくれたので,私たちはT地区行きのバスに同乗した.バスの中の人びとは,Y保健婦とはみな顔なじみで,時候のあいさつに交じえてなにかとY保健婦に相談したり報告したりしている.私はバスの中から紅葉に色づいた山々を眺めながらそれを聞いていて,その情意のつながりがほほえましく感じられた.保健婦が地区住民にすっかり解けこんでいる日ごろの活動ぶりがうかがわれて,心あたたまる思いであった,バスから降りて粘土地の山道を,M老人のことを話し合いながら歩いた.やっと人が登れる程度の急勾配の道をのぼりきったところに,目差すその老人の家があった.
Copyright © 1965, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.