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はじめに
「労働」という言葉を,われわれはLabour,ないしWorkの翻訳語として使っている.しかし,この2つの言葉は全く違った意味を持っている.Labourは生きるためやむを得ず働くことを意味し,ラテン語のTripariumを語源としている.この語源は3つの棒杭のついた道具という意味であり,怠け者を突いて働かせる時に使われたものである.ここから転じて労苦ひいては労働(賃労働)という意味になっていった.トランプのクラブは,実は三つ葉のクローバーといった明るいものではなく,この暗いイメージの3つの棒杭のついた道具に由来している1).
他方,Workは作品とも訳せるように,職人や芸術家のごとく,働くことが自分の存在の証明であることを意味している.Workの語源はラテン語のFaberであり,石とか木などの固い材料に働きかける製作者や芸術家の作業を意味していた.
わが国において,翻訳語として「労働」という用語が一般化したのは1910年代の大正期と思われる.因に明治39年(1906)に刊行された『漢和大辞林』をみると,「労動」という用語しか見当たらず,「働」は国字の欄に一字で載っているだけである.但し,例えば明治34年に片山潜が『日本の労働運動』を著わしているように,一部の「進歩的」インテリゲンチアは明治末期から「労働」という用語を使っていたようである2).
この時期(日露戦争以降)にイ(ニンベン)のついた「労働」という用語が一般化し始めたということは,わが国に産業革命が発生し賃労働者が出現したことを物語っている.
ところで,この賃労働者の労働は「狭義の労働」であり,この他に「広義」さらには「最広義」の労働がある.そこで,以下,「最広義」,「広義」,「狭義」の順で問題点を整理して行きたい.
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