特集 統計を学ぶ
数の効用—統計のうそと真実
田中 恒男
1
1東大・公衆衛生
pp.10-14
発行日 1964年6月10日
Published Date 1964/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662203123
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うそをつく数字
友人が事業計画のたて方を,数字中心に説明していったとき「何よ,二言めには数,数って.数字のおばけじゃあるまいし.」と柳眉をさかだてた高名な保健婦さんがいたそうだ.すう高な精神にもえたその保健婦さんは一人の指導に身をやつし,計画などとは憎むべき経営者,管理者の言うことだと考えたらしい.たしかに毎日の訪問や健康相談に身をけずる思いをしているあなた方には,計画ということばはあったって,あまり現実的なものとは考えていないかもしれないし,数量的な計画などといえばなおさら数には弱いんだからといって見むきもしなくなる.しかし,保健婦の反対があろうがなかろうが,保健活動の面での数量的な見方,考え方,そしてまた統計的な手法は広くとり入れられていて,行き当たりばったりのやり方は時代おくれになりつつあるのである.
だがしかし,英国の有名な科学史学者バナールもとくように
「数字は,ことばにおとらず細工しやすく,しかも,公正な事実という気分をただよわせているので,いっそう人をあざむきやすい」のも真理であり,統計学者や数学主義者の行きすぎも批判されなければならない.したがって,数という近代の万国共通語は,正しい扱いをうければこの上なく便利なものとなるし,もし誤った扱いをすれば人を欺き,迷わすもとになる.だから,正しい数牢の扱いを知っていなければ,とんでもない失敗をやらかすことになるのである.
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